一般社団法人ビブリオスタイル 2021年度事業報告書

第1章 2021年度(第4期 2021年4月1日〜2022年3月31日)決算報告

はじめに

今期の事業報告から構成を変更し、第1章として過去と比較しながら決算内容を報告し、それを踏まえつつ第2章として今期の事業内容を振り返ることにする。

2021年度貸借対照表

今期末(2022年3月31日)現在における資産の保有状況(貸借対照表)を以下に示す。なお、単位は円である。

科目 当年度 前年度 増減
Ⅰ 資産の部
1 流動資産
現金・預金 1,180,342 345,708 834,634
他流動資産 1,058,750 1,058,750
流動資産合計 2,239,092 345,708 1,893,384
2 固定資産
(1) その他固定資産
創立費 113,050 113,050 0
その他固定資産合計 113,050 113,050 0
固定資産合計 113,050 113,050 0
資産合計 2,352,142 458,758 1,893,384
Ⅱ 負債の部
1 流動負債
預り金 31,139 31,139 0
役員借入金 4,806,561 3,806,561 1,000,000
買掛金 11,000 11,000
未払法人税等 20,000 20,000
流動負債合計 4,868,700 3,837,700 1,031,000
負債合計 4,868,700 3,837,700 1,031,000
Ⅲ 正味財産の部
1 一般正味財産 -2,516,558 -3,378,942 862,384
正味財産合計 -2,516,558 -3,378,942 862,384
負債及び正味財産合計 2,352,142 458,758 1,893,384

1年以内に回収できる資産を流動資産という。今期の流動資産合計は、前期から1,893,384円増加した2,239,092円だった。1年よりも長く保有される固定資産と合計した資産合計は、同じく1,893,384円増の2,352,142円となっている(なお創立以来、固定資産額は変わってない)。

一方、負債合計は昨年より1,031,000円増えて4,868,700円となった。資産合計から負債合計を引いた正味財産合計は、前期よりも862,384円増加して-2,516,558円だ。ここまでの貸借対照表における主な指標を、第1期から通覧したグラフ1を以下に示そう。創立以来、下降する一方だった正味財産合計が、今期ではまだマイナスながらも上昇に転ずることができたのが目を引く(図1)。

図1 創立以来の貸借対照表における主な指標の変遷

2021年度正味財産増減計算書

次に、今期中(2020年4月1日から2021年3月31日)のお金の使い方や売上の明細がわかる、正味財産増減計算書を見てみよう。これも単位は円である。

科目 当年度 前年度 増減
Ⅰ. 一般正味財産増減の部
1. 経常増減の部
⑴ 経常収益
①事業収益 ( 6,267,250) (1,503,721) (4,763,529)
事業収益 6,267,250 1,503,721 4,763,529
②受取寄付金 (116,546) (61,209) (55,337)
受取寄付金 116,546 61,209 55,337
③雑収益 (6) (4) (2)
受取利息 6 4 2
経常収益計 6,383,802 1,564,934 4,818,868
⑵ 経常費用
① 事業費
事業経費 (325,918) (373,823) (-47,905)
事)旅費交通費 11,527 -11,527
事)通信運搬費 940 252 688
事)消耗品費 22,000 22,000
事)雑費 39,064 -39,064
事)支払手数料 97,624 65,575 32,049
事)支払報酬料 198,000 257,405 -59,405
事)新聞図書費 7,354 7,354
事業費計 325,918 373,823 -47,905
② 管理費
管)業務委託費 5,175,500 3,454,000 1,721,500
管)会議費 2,623 -2,623
管理費計 5,175,500 3,456,623 1,718,877
経常費用計 5,501,418 3,830,446 1,670,972
評価損益等調整前当期経常増減額 882,384 -2,265,512 3,147,896
評価損益等計 0 0 0
当期経常増減額 882,384 -2,265,512 3,147,896
2. 経常外増減の部
⑴ 経常外収益
経常外収益計 0 0 0
⑵ 経常外費用
経常外費用計 0 0 0
当期経常外増減額 0 0 0
他会計振替前当期一般正味財産増減額 882,384 -2,265,512 3,147,896
税引前当期一般正味財産増減額 882,384 -2,265,512 3,147,896
法人税、住民税及び事業税 20,000 20,000 0
当期一般正味財産増減額 862,384 -2,285,512 3,147,896
一般正味財産期首残高 -3,378,942 -1,093,430 -2,285,512
一般正味財産期末残高 -2,516,558 -3,378,942 862,384
Ⅱ. 指定正味財産増減の部
当期指定正味財産増減額 0 0 0
指定正味財産期首残高 0 0 0
指定正味財産期末残高 0 0 0
Ⅲ. 正味財産期末残高 -2,516,558 -3,378,942 862,384

まず「Ⅰ. 一般正味財産増減の部」を見ていこう。ここでいう「一般正味財産」とは「指定正味財産」と対になる用語だ。後者が使途を指定され法人の意志で使い道を決められない財産であるのに対し、前者はその反対、法人が自由に使い道を決められる財産だ。後述するように当法人は指定正味財産は0円なので、このセクションを見ることで、第4期の収入と支出を把握することができるはずだ。

その「Ⅰ. 一般正味財産増減の部」の中で目を引くのが、事業収益が前期より4,763,529円多い6,267,250円をあげたことだ(淡黄の背景色)。この結果、本業で得た利益を示す経常利益計は、前期より1,564,934円多い6,383,802円をあげることができた。この収益額は前期の約4倍に当たる。これは前期事業報告書でも述べた外部企業からの受託開発が、今期に入って拡大したことによる。また、額としては決して多くないものの、受取寄付金も前期より55,337円多い116,546円を得ることができた。

一方、事業をおこなうための経費である事業費計は、前期より47,905円少ない325,918円だった。法人が存続するための費用である管理費計は、前期より1,718,877円多い5,175,500円だった。この増加分は、前述した大幅増となった事業収益に関わる業務委託費(下請への人件費)である。すでに述べたように、前期も事業収益は1,503,721円をあげていた。それを約4倍も拡大できたのは、件数自体が増えたこともあるが、村上代表理事以外の開発者へ下請に出せたことが大きく寄与している。来期も同様以上の事業収益を確保できるかは、開発リソースの確保がカギとなろう。なお、ここまで述べた事業費計と管理費計を合算した経常費用計は、前期より1,670,972円多い5,501,418円である。

さらに下に見ていって、有価証券等に関わる保有資産の購入価格と現在価格の差額を示す評価損益等計は0円。有価証券は保有していないからだ。本業以外の収益を示す経常外費用計も0円となっている。

「Ⅰ. 一般正味財産増減の部」の最後は、一般正味財産期首残高と一般正味財産期末残高だ。これを簡単に言えば、前者が前期からの繰越金であるのに対し、後者は次期への繰越金だ。前者、つまり一般正味財産期首残高が-3,378,942だったところ、後者、つまり一般正味財産期末残高は862,384円増加した-2,516,558を計上した。わかりやすく言えば、前期までの赤字を減らしはしたものの、解消までの道のりはまだまだ遠いことを表している。

次のセクション「Ⅱ. 指定正味財産増減の部」は前述したとおりすべて0円だ。そして、第5期への繰越金である「Ⅲ. 正味財産期末残高」は-2,516,558円(一般正味財産期末残高と一致)となった。ここまでの正味財産増減計算書における主な指標の変遷を、創立から辿ってグラフ化したものを示す(図2)。事業費を除いた全ての指標が、大きく上昇していることが分かる。

図2 創立以来の正味財産増減計算書における主な指標の変遷

最後に当期経常増減額、つまり事業の結果が赤字か黒字かを示す指標を、創立からグラフ化したものを示す(図3)。前期まで赤字額が増える一方だったのを、今期はV字回復で黒字(いわゆる単年度黒字)に転換できたことが分かる。

図3 創立以来の当期経常増減額の変遷

2021年度収支計算書

第1章の終わりとして、今期中(2020年4月1日から2021年3月31日)における、予算額と決算額を比較した収支計算書を見よう。ただし、当法人は予算を策定していないので、形式的なものに留まり、前節の正味財産増減計算書と実質的に同じ内容になる。なお、これも単位は円である。

科目 予算額 決算額 差異 備考
Ⅰ. 一般正味財産増減の部
1. 経常増減の部
⑴ 経常収益
①事業収益 (0) (6,267,250) -6,267,250
事業収益 6,267,250 -6,267,250
②受取寄付金 (0) ( 116,546) (-116,546)
受取寄付金 116,546 -116,546
③雑収益 (0) (6) (-6)
受取利息 0 6 -6
経常利益計 0 6,383,802 -6,383,802
⑵ 経常費用
① 事業費
事業経費 (0) (325,918) -325,918
事)通信運搬費 940 -940
事)消耗品費 22,000 -22,000
事)支払手数料 97,624 -97,624
事)支払報酬料 198,000 -198,000
事)新聞図書費 7,354 -7,354
事業費計 0 325,918 -325,918
② 管理費
管)業務委託費 5,175,500 -5,175,500
管理費計 0 5,175,500 -5,175,500
経常費用計 0 5,501,418 -5,501,418
評価損益等調整前当期経常増減額 0 882,384 -882,384
評価損益等計 0 0 0
当期経常増減額 0 882,384 -882,384
2. 経常外増減の部
⑴ 経常外収益
経常外収益計 0 0 0
⑵ 経常外費用
経常外費用計 0 0 0
当期経常外増減額 0 0 0
他会計振替前当期一般正味財産増減額 0 882,384 -882,384
税引前当期一般正味財産増減額 0 882,384 -882,384
法人税、住民税及び事業税 0 20,000 -20,000
当期一般正味財産増減額 0 882,384 -882,384
一般正味財産期首残高 0 -3,378,942 3,378,942
一般正味財産期末残高 0 -2,516,558 2,516,558
Ⅱ. 指定正味財産増減の部
当期指定正味財産増減額 0 0 0
指定正味財産期首残高 0 0 0
指定正味財産期末残高 0 0 0
Ⅲ. 正味財産期末残高 0 -2,516,558 2,516,558

第2章 2021年度(第4期 2021年4月1日〜2022年3月31日)事業報告

はじめに

今期、当法人は単年度黒字を達成することができた。その直接の原因は、前章で述べたように外部企業からの受託開発が拡大したからだ。しかし、その背景にはVivliostyleプロダクトが充実したこと、そしてそれによってプロダクト間のエコシステムが機能し始めた事実がある。言い換えれば、これらの要因なしに受託開発の拡大もなかったと考えられる。

そこで本章ではVivliostyleプロダクトそれぞれの開発状況を説明する。さらに次期への課題はないかを探っていく。これも繰り返しになるが、当法人は決して少なくない累積赤字を抱えており、その解消が当面の目標となるからだ。

プロダクトの分類とそれぞれの役目

各プロダクトの開発状況について報告する前に、ラインナップにおける位置づけを整理しておこう。近年プロダクトが増えたのは喜ばしいが、それぞれがどのような役割を果たしているのか、全体の中でどのように位置づけられるのか、外側からは分かりづらくなっているからだ。

上記のリンクは、それぞれのリポジトリへのものだ。つまり、上記分類はリポジトリの分類でもある。ただし、上記分類は分かりやすく説明するためのもので、必ずしも厳密なものではない。たとえばVFMはライブラリであると同時に、MarkdownをHTMLに変換するジェネレータの一面ももつ。

では次節以降、上記分類に従いながら今期における各プロダクトの開発状況を、ユーザーイベントでの発表やブログ記事などを参照しながら説明していこう。なお、参考のために期首時点と期末時点のバージョンをカッコ内に示した(プロダクトとしてのリリースの概念がないVivliostyle ThemesとVivliostyle Pubを除く)。

ライブラリ:Vivliostyle.js(v2.6.2→v2.14.4 )

Vivliostyle.jsは実際にCSS組版をおこなうソフトウェアであり、Vivliostyleプロダクトの中核的存在である。幸いなことに本プロダクトは、以下のように今期大幅な機能アップを果たすことができた。

では、これらの機能はどのようにして開発されたのか。当該リポジトリにおける月毎のプルリクエスト数をグラフ化し、前期と比較してみたのが下記のグラフだ(図4/自動処理は除外し、人間によるプルリクエストのみを対象にした。以下同)。

図4 前期と比較したVivliostyle.jsリポジトリの月間プルリクエスト数

前期も年間を通してコンスタントにプルリクエストを出していたが、今期はそれを上回る開発ペースであったことがわかる。前掲の機能アップも、こうした熱心な開発の結果として実現された。

ここで重要なことは、Vivliostyle.jsの機能アップが、これを組み込んだVivliostyle CLIやVivliostyle Pubにも波及し、直ちにこれらも新機能を実装していったことだ。まさにライブラリとしての本領が発揮された場面だった。

ライブラリ:VFM(v1.0.0-alpha.17→v1.2.1)

書籍むけ組版に最適化したMarkdown方言であるVFM (Vivliostyle Flavored Markdown)は、今期v1をリリースすることができた。このv1は、きたるべきv2への準備という側面もある。

もともと本プロダクトは、Markdownへの変換エンジンとしてRemarkを採用していた。しかし、その新バージョンRemark 13には過去のバージョンと非互換な変更が多く含まれていることから、その実装は多大な作業量が予想された。

そこで、まずRemark 13なしに実装できる範囲の機能を備えたバージョンをv1としてリリースし、その後v2としてRemark 13への対応に取り組む方針を決めていた。詳細はメンテナーであるakabekobeko氏の発表を参照してほしい。

2021年7月21日にリリースされたv1.0.2が、このRemark 13なしに実現できる機能を実装したものだ。同じく詳細は下記を参照されたい。

v1で解決されたIssue等の一覧は下記の通りだ。Vivliostyle.jsと同様、こうした機能アップは速やかにVivliostyle CLIをはじめとしたプロダクトに実装されている。

ライブラリ:Vivliostyle Themes

Vivliostyleプロダクトが共通して使えるスタイルファイルのライブラリーが本プロダクトだ。スタイルを定義した複数のThemeファイル群と、それらThemeを作成するためのツール群から成り立っている。

今期も複数回のマイナーアップデートをおこなった。しかし成果として取り上げるべきは、むしろ下記ユーザーガイドの公開だろう。

ユーザーは本プロダクトによって、Vivliostyleプロダクトを使う際に新しくスタイルを設定する手間が不要になり、より早く簡単に文書作成ができるようになる。しかし、そのためにはユーザーの需要に応じた多種多様なThemeの公開が必要となる。しかし、私たちだけで多くのThemeを作成・公開するのは現実的ではない。個々のユーザーが簡単に新しいThemeを作ることができ、また、それを気軽に公開してもらうようにしなくてはならない。そうすることでライブラリーとしての本プロダクトがより便利になり、それがさらに新しいTheme作成を促すと言った循環が成立するはずだ。

ところが現状は本プロダクトの認知度が低く、まだまだ目標への道のりは遠い。そこでメンテナーであるyamasy1549氏が考えたのが、まずThemeの使い方、作り方などを知ってもらうためのドキュメント整備だった。上記ユーザーガイドはその第一歩といえるものだ。より詳しくは下記を参照してほしい。

ジェネレータ:Vivliostyle CLI(v3.2.1→v4.8.2)

CLI(コマンドライン・インターフェイス)でMarkdownをHTMLに変換、出力できるのが本プロダクトだ。まず月間プルリクエスト数を、前期と比較したグラフを見てほしい。前期ほどではないが、今期もコンスタントに開発が続けられたことが分かる(図5)。

図5 前期と比較したVivliostyle CLIリポジトリの月間プルリクエスト数

このような開発の結果、今期も本プロダクトはさまざまな機能アップを果たすことができた。中でも大きなものは、仮想環境下で実行できるDockerモードのサポートだろう(v4.0.0)。Dockerはプログラムの実行環境を仮想化してくれる。これにより、OSやブラウザ、Vivliostyle CLI本体をバージョンアップすることで、出力結果が変わってしまうトラブルから解放された。こうした冪等性/信頼性の確保は、実務でVivliostyle CLIを利用したいユーザーにとって不可欠なもののはずだ。

これ以外にもマイナーながらいくつもの機能が追加されている。ここでは本プロダクトのメンテナーであるspring-raining氏が、第4期終了直後に開催されたユーザーイベント「Vivliostyle ユーザーと開発者の集い 2022春」において、「Vivliostyle CLI update - 2022 Spring」として発表したものに従いながら、v4.0.0以降のアップデート内容をまとめてみよう。

なお、spring-raining氏はこの時の発表で、本プロダクトの将来構想について以下のように述べている。次期への期待が膨らむ。

ジェネレータ:create-book(v0.1.6→v0.5.1)

本プロダクトは、Vivliostyle CLIの実行環境をインタラクティブに構築することができるソフトウェア、つまりインストーラーである。ただし、今期はメインテナンス的なアップデートが多く、大きな機能アップはなかった。

ジェネレータ:vivliostyle-sitegen

本プロダクトは、VFMを使った静的サイトジェネレーター(Static Site Generator)として構想されたもので、今期に入って新しく開発がスタートしたプロダクトだ。

もともとのきっかけは、秋のユーザーイベント(2021年11月14日開催のCSS組版 Vivliostyle ユーザーと開発者の集い 2021秋)における自由討議のセッションで、せっかくVFMがv1をリリースするまで成長したのに、これを使ってVivliostyleのサイトや各種ドキュメントが書けないのは残念という声が出たことだった。それに応える形でVFMのメンテナーであるakabekobeko氏が手を挙げ、2022年1月から開発がはじまった。

現在、来期中のリリースを目指して開発がすすめられている。リリース後は vivliostyle.orgをはじめとする、Vivliostyleに関わるユーザー向けドキュメント制作システムに実装していく予定だ。そうなれば、豊富な表現力をもつVFMを使ってVivliostyleに関する情報発信ができるようになる。こうして、ますますVivliostyleのエコシステムが広がることになるだろう。

Webアプリ:Vivliostyle Pub

本プロダクトは、ここまで述べてきたVivliostyle.js、VFM、Vivliostyle Themes、Vivliostyle CLIをクラウド上にデプロイしたWebアプリだ。ユーザーがブラウザ上の左側画面でMarkdownを書けば、即座にCSS組版して右側画面にプレビュー表示する(図6)。

図6 アルファ版を公開したVivliostyle Pub

もともとは2019年度(前々期)において、開発資金確保を目的とした未踏アドバンスト事業への応募のために急遽立ち上げられた。コミッター達が一丸となった2ヵ月間の集中開発をへて、2020年5月にPoC(Proof of Concept、概念実証)まで完成させた(前期事業報告書参照)。

しかし、2020年6月に落選が決まった後、少しずつコミッターが去っていき、残ったtakanakahiko氏だけがコツコツと開発を続けてくれていた。そうした状況を一変させたのが2021年11月、AyumuTakai氏の参入だった。ここで、本プロダクトの月間プルリクエスト数を前期と比較したグラフをご覧いただきたい(図7)。

図7 前期と比較したVivliostyle Pubリポジトリの月間プルリクエスト数

一見すると今期前半において前期よりも多くプルリクエストをだしている(これはtakanakahiko氏の仕事)ものの、AyumuTakai氏が加わった11月〜翌年2月に関しては、さほど前期と今期の違いはないように見える。そこで指標を変えて、月間コミット数を前期と比較したグラフを見てみよう(図8)。

図8 前期と比較したVivliostyle Pubリポジトリの月間コミット数

青い線は前期の、緑の線は今期のデフォルトブランチに対するコミット数だ。この2つのラインを見る限り、前掲図7の月間プルリクエスト数と同様、11月〜翌年2月に関してはさほど開発は進んでないように見える。ところがグレイのラインに注目してほしい。これは今期のAyumuTakai氏によるprototypeブランチでの月間コミット数を重ね合わせたものだ。前期4月〜5月のコミット数は4〜5人のチームで開発した結果なのだが、それを凌駕する数のコミットを、たった1人でしていることが分かる。ただし、その開発方法はいささか変則的と言えるものだった。

AyumuTakai氏は11月2日からprototypeブランチで開発を始めているが、2月に入るまでデフォルトブランチへのプルリクエストは出さず、ひたすらprototypeブランチで多くのコミットを積み上げている。もしかしたら、たくさんの改良を次々に加えていった結果、プルリクエストを出すタイミングを失ったのかもしれない。結局、prototypeブランチはそのままにして、2月3日にpre_alphaというブランチを新規作成し、ここからデフォルトブランチへのプルリクエストを1回だけ出している。

この結果、前掲図7で示したプルリクエスト数にはAyumuTakai氏の作業はほとんど現れなかったが、前掲図8においてprototypeブランチのコミット数を重ね合わせることで、彼の貢献が可視化できた。この時のプルリクエスト、アルファ版準備 #142の記録をみると、ここで追加されたユーザーインターフェースの変更や追加した機能のリストを見ることができる。どれも本プロダクトをごく普通に使うためには、必須の要素であったことが分かる(なお、AyumuTakai氏は本業多忙を理由に、3月いっぱいで開発から退いた。彼の貢献に心から感謝する)。

ここまで本プロダクトの開発を直接担当したAyumuTakai氏やtakanakahiko氏の貢献について述べた。しかし忘れてはいけないのは、前節まで説明したVivliostyle.js、VFM、Vivliostyle Themes、そしてVivliostyle CLIのアップデートの成果を、本プロダクトはコンポーネントを入れ替えるだけで、そのまま取り込むことができたということだ。

たとえば、前掲図6を見るとWebフォントを表示しているが、これは本プロダクトではなく、Vivliostyle.jsのアップデートによって実現した機能だ。まさにエコシステムとしてのVivliostyleプロダクトの力を実感できよう。

このようにして、当初の目標よりもだいぶずれ込んだが、2022年4月23日開催のCSS組版 Vivliostyle ユーザーと開発者の集い 2021秋で、本プロダクトのアルファ版公開を告知することができたのである。

Webコンテンツとその制作システム

ここでは、下記のVivliostyleに関わるユーザー向けドキュメントと、その制作システムを一括して取り上げる。

  1. vivliostyle.orgWebサイト本体
  2. docs.vivliostyle.org各プロダクトのユーザーガイド
  3. docs-vivliostyle-pubVivliostyle Pubのユーザーガイド
  4. vivliostyle_docサンプルページ事業報告書

当法人にとって、もっとも身近な情報発信のツールは上記1におけるブログである。今期は以下の8本の記事を更新した。

また、Vivliostyle Themesの節で新しく追加したことに述べたユーザーガイドは、上記2のうちの一つだ。そして上記3も、Vivliostyle Pubのアルファ版公開に備えて、今期新しく追加したユーザーガイドだ。

いずれも執筆はMarkdownでおこなうが、それをHTMLに変換するコンバーターは、1はJekyll、2と3はdocute、4はPandocとバラバラであるという課題がある。この状況を改善し、さらにVFMの豊富な表現を使えるようにしようというのが、 vivliostyle-sitegenであることは前述したとおりだ。

次期への課題とその対処

以上、今期におけるVivliostyleプロダクトの開発状況を説明した。創立当初、当法人のプロダクトは現在のVivliostyle Viewer/Vivliostyle.jsと、Vivliostyle CLIにつながるものだけであった。そこから毎年少しずつリポジトリを増やしていき、前節まで述べてきたようなプロダクト間のエコシステムが機能し始めるところまで辿り着いた。

前章において、今期に単年度黒字を達成したことを報告したが、事業収益のほとんどはVivliostyleプロダクトに関わる受託開発、あるいは過去に納品したプロダクトのメンテナンスにより得られたものだ。つまり当法人の場合、プロダクトの開発とその拡充が、ダイレクトに事業収益確保につながっている。

とはいえ、Vivliostyleプロダクトを拡充しさえすれば、そのまま事業収益が増えていく訳ではない。つまり増益のためにプロダクト拡充は、必要条件ではなく十分条件なのである。では増益を阻むものはなにか。以下のような課題を挙げたい。

  1. 事業収益のほとんどが受託開発に限られていること
  2. 受託開発を請け負う開発者が限られていること
  3. 受託開発の発注先がほぼ1社に限られていること

上記1の対処として、受託開発以外の多様な収益の確保が必要だ。たとえばVivliostyle Pubを使った事業収益などが挙げられるだろう。また、第3期にスポンサー募集ページを作った後、ほとんど働きかけをしていない寄付金の拡充も真剣に考えるべきだろう。

同じく2については、前章「2021年度正味財産増減計算書」で述べたように、今期は村上代表以外の受託者を確保できたところ、来期も引き続き受託者を確保できるかがカギとなる。たとえば、コミッターの皆さんに受託開発をお願いすることも検討するべきだ。加えて個々のコミッターの負担を減らすために、プロダクト全体でコミッターを増やす努力が求められるだろう。

最後に3については、発注先の多様化は当然として、あわせて前述1の対処がそのまま3への対処ともなるはずだ。

理事