一般社団法人ビブリオスタイル 2022年度事業報告書

第1章 2022年度(第5期 2022年4月1日〜2023年3月31日)決算報告

はじめに

前期に初めて単年度黒字を達成した当法人だが、残念ながら今期は再び赤字となった。以下、その詳細について説明する。

2022年度貸借対照表

今期末(2023年3月31日)現在における資産の保有状況(貸借対照表)を以下に示す。なお、単位は円である。

科目 当年度 前年度 増減
Ⅰ 資産の部
1 流動資産
現金・預金 493,367 1,180,342 -686,975
他流動資産 211,750 1,058,750 -847,000
流動資産合計 705,117 2,239,092 -1,533,975
2 固定資産
(1) その他固定資産
創立費 113,050 113,050 0
その他固定資産合計 113,050 113,050 0
固定資産合計 113,050 113,050 0
資産合計 818,167 2,352,142 -1,533,975
Ⅱ 負債の部
1 流動負債
預り金 31,139 31,139 0
役員借入金 4,806,561 4,806,561 0
買掛金 11,000 11,000 0
未払法人税等 20,000 20,000 0
流動負債合計 4,868,700 4,868,700 0
負債合計 4,868,700 4,868,700 0
Ⅲ 正味財産の部
1 一般正味財産 -4,050,533 -2,516,558 -1,533,975
正味財産合計 -4,050,533 -2,516,558 -1,533,975
負債及び正味財産合計 818,167 2,352,142 -1,533,975

負債合計が前期から横這いだった一方、資産合計は大きく前期を割り込んだ。まさにこれが今期の決算の特徴となっている。具体的には、前期の資産合計は2,239,092円だったところ、今期は1,533,975円マイナスの705,117円となった。そこで、創立以来の貸借対照表における主な指標(表の水色セル)の変遷を見てみよう(図1)。

図1 創立以来の貸借対照表における主な指標の変遷

資産合計は3期、4期と少しずつ上昇していたが、5期で下げてしまった。正味財産は3期まで下がり続けていたのを4期で持ち直したが、再び5期で下げた。負債合計だけは前述の通り横這いを保った。実のところ、今期は創立以来初めて負債を増やさない期にできた。当法人における最優先課題として、来期以降も負債額の抑制、そして圧縮を目指したい。

2022年度正味財産増減計算書

資産から負債を差し引いた価額を「正味財産」という。その増減を記録したのが「正味財産増減計算書」であり、これにより今期中(2022年4月1日から2023年3月31日)のお金の使い方や売上の明細がわかる。

科目 当年度 前年度 増減
Ⅰ. 一般正味財産増減の部
1. 経常増減の部
⑴ 経常収益
①事業収益 ( 3,235,750 ) (6,267,250) (-3,031,500)
事業収益 3,235,750 6,267,250 -3,031,500
②受取寄付金 (148,498) (116,546) (31,952)
受取寄付金 148,498 116,546 31,952
③雑収益 (10) (6) (4)
受取利息 10 6 4
経常収益計 3,384,258 6,383,802 -2,999,544
⑵ 経常費用
① 事業費
事業経費 (668,733) (325,918) (342,815)
事)旅費交通費 1,676 0 1,676
事)通信運搬費 1,848 940 908
事)消耗品費 204 22,000 -21,796
事)支払手数料 461,405 97,624 363,781
事)支払報酬料 198,000 198,000 0
事)新聞図書費 5,600 7,354 -1,754
事業費計 668,733 325,918 342,815
② 管理費
管)業務委託費 4,229,500 5,175,500 -946,000
管理費計 4,229,500 5,175,500 -946,000
経常費用計 4,898,233 5,501,418 -603,185
評価損益等調整前当期経常増減額 -1,513,975 882,384 -2,396,359
評価損益等計 0 0 0
当期経常増減額 -1,513,975 882,384 -2,396,359
2. 経常外増減の部
⑴ 経常外収益
経常外収益計 0 0 0
⑵ 経常外費用
経常外費用計 0 0 0
当期経常外増減額 0 0 0
他会計振替前当期一般正味財産増減額 -1,513,975 882,384 -2,396,359
税引前当期一般正味財産増減額 -1,513,975 882,384 -2,396,359
法人税、住民税及び事業税 20,000 20,000 0
当期一般正味財産増減額 -1,513,975 862,384 -2,396,359
一般正味財産期首残高 -2,516,558 -3,378,942 862,384
一般正味財産期末残高 -4,050,533 -2,516,558 -1,533,975
Ⅱ. 指定正味財産増減の部
当期指定正味財産増減額 0 0 0
指定正味財産期首残高 0 0 0
指定正味財産期末残高 0 0 0
Ⅲ. 正味財産期末残高 -4,050,533 -2,516,558 -1,513,975

この正味財産増減計算書のうちの主な指標(表の水色セル)について、創立以来の増減をグラフにした(図2)。

図2 創立以来の正味財産増減計算書における主な指標の変遷

一つ一つ見ていこう。まず当団体が経常的に得た収益を表す「経常収益額」(黄色の線)の増減をみると、4期まで上昇を続けたが5期は下げている。これは前項の資産合計と同じ動きだ。

そもそも経常収益は、①事業収益(表の黄色セル)、②受取寄付金、③雑収入からなっている。正味財産増減計算書をみると分かるとおり、②が前期を31,952円上回る健闘をしたものの、ほとんどを占めるのは①だ。つまり、経常収益が減った原因は、事業における収益が前期から下降したことが原因だ。

事業の結果が赤字か黒字かを示す指標「当期経常増減額」(ピンク色の線)をみると、前期は882,384円の黒字だったところ、今期はマイナス1,513,975円となった。

事業費と管理費は経常収益を生み出すための経費であり、経常費用は両者の合計である。事業費は前期よりも342,815円増えた668,733円だった一方、管理費は前期よりも946,000円減った4,229,500円だった。また、経常費用は前期よりも603,185円減の4,898,233円だった。

今期が終わった時点での正味財産の額である「一般正味財産期末残高」(赤色の線)をみると、3期まで拡大を続けてきた赤字額は、4期でやや持ち直したものの、今期は4,050,533円にもなった。来期以降、これをどのように削減していくかが課題となる。

さて、本節の最後として、経常収益が減少した原因を探ってみよう。繰り返しになるが、経常収益のほとんどを占めるのは事業収益(表の黄色セル)だ。そこで前期の事業収益6,267,250円と、今期の事業収益3,235,750円の内訳をグラフにしてみた。

図3 前期と今期における事業収益の内訳

編集制作が前期から1,000,000円増える一方で、保守契約を含めた外部からの受託開発が前期からじつに4,031,500円マイナスの1,685,750円に減少した(なお、編集制作は小形克宏理事が、受託開発は村上真雄代表理事が主に担当)。受託開発について前期の事業報告書で、以下のように説明している。

目を引くのが、事業収益が前期より4,763,529円多い6,267,250円をあげたことだ。(中略)これは外部企業からの受託開発が、今期に入って拡大したことによる。

つまり今期は受託開発の売り上げが大幅に減少し、これにより赤字となった訳である。

2022年度収支計算書

第1章の終わりとして、今期中(2022年4月1日から2023年3月31日)における、予算額と決算額を比較した収支計算書を見よう。ただし、当法人は予算を策定していないので、形式的なものに留まり、前節の正味財産増減計算書と実質的に同じ内容になる。

科目 予算額 決算額 差異 備考
Ⅰ. 一般正味財産増減の部
1. 経常増減の部
⑴ 経常収益
①事業収益 (0) (3,235,750) -3,235,750
事業収益 3,235,750 -3,235,750
②受取寄付金 (0) (148,498) (-148,498)
受取寄付金 148,498 -148,498
③雑収益 (0) (10) (-10)
受取利息 0 10 -10
経常利益計 0 3,384,258 -3,384,258
⑵ 経常費用
① 事業費
事業経費 (0) (668,733) -668,733
事)旅費交通費 1,676 -1,676
事)通信運搬費 1,848 -1,848
事)消耗品費 204 -204
事)支払手数料 461,405 -461,405
事)支払報酬料 198,000 -198,000
事)新聞図書費 5,600 -5,600
事業費計 0 668,733 -668,733
② 管理費
管)業務委託費 4,229,500 -4,229,500
管理費計 0 4,229,500 -4,229,500
経常費用計 0 4,898,233 -4,898,233
評価損益等調整前当期経常増減額 0 -1,513,975 -1,513,975
評価損益等計 0 0 0
当期経常増減額 0 -1,513,975 1,513,975
2. 経常外増減の部
⑴ 経常外収益
経常外収益計 0 0 0
⑵ 経常外費用
経常外費用計 0 0 0
当期経常外増減額 0 0 0
他会計振替前当期一般正味財産増減額 0 -1,513,975 1,513,975
税引前当期一般正味財産増減額 0 -1,513,975 1,513,975
法人税、住民税及び事業税 0 20,000 -20,000
当期一般正味財産増減額 0 -1,513,975 1,513,975
一般正味財産期首残高 0 -2,516,558 2,516,558
一般正味財産期末残高 0 -4,050,533 4,050,533
Ⅱ. 指定正味財産増減の部
当期指定正味財産増減額 0 0 0
指定正味財産期首残高 0 0 0
指定正味財産期末残高 0 0 0
Ⅲ. 正味財産期末残高 0 -4,050,533 4,050,533

第2章 2022年度(第5期 2022年4月1日〜2023年3月31日)事業報告

PR数からみたプロダクトの開発状況

この章では、今期おこなった事業について報告する。当法人の設立目的でもあるプロダクト開発はどうだったのだろう。当法人の主要なプロダクトのプルリクエスト(PR)数を集計してみた(図4)。なお、ここではbotによるPRは排除し、人間によるものだけを集計している。

図4 過去3期分の主要プロダクトPR数

すべての基盤となるプロダクト、Vivliostyle.jsのPR数が飛び抜けて多く、開発が大きく進捗したことが分かる(当法人のプロダクト構成については前年度活動報告書を参照)。それに次ぐのが、Vivliostyle CLIVivliostyle Pubで、これらの開発も順調に進んだと言える。ただし、この3つ以外のプロダクトのPR数は低調だった。

PR作成者の分析

これをまとめると、開発が順調に進んだVivliostyle.js、Vivliostyle CLI、Vivliostyle Pubのグループと、あまり順調とは言えなかったVFMthemesのグループに明確に分かれる。では、この2つのグループを分けた要因は何か。PRの作成者に注目してみよう。

作成者 PRの数
村上代表理事 119
その他 6
総計 125
表1 Vivliostyle.jsにおけるPR作成者の内訳
作成者 PRの数
村上代表理事 72
spring-raining 11
総計 83
表2 Vivliostyle CLIにおけるPR作成者の内訳
作成者 PRの数
村上代表理事 33
takanakahiko 7
総計 40
表3 Vivliostyle PubにおけるPR作成者の内訳

これらの表を見ると分かるとおり、順調に開発が進んだグループにおいて、多くのPRを作成したのは村上代表理事だった。一方で、あまり順調と言えなかったグループでは、村上代表理事の関与が少なかった。

ちなみに、Vivliostyle CLIとVivliostyle Pubにおける村上代表理事のPR内容を見ると、Vivliostyle CLIやVivliostyle Pubに独自の機能を追加するPRという訳ではなく、彼自身がメンテナーを務めるVivliostyle.jsにおける機能追加やバグ修正を、それぞれに波及させるためのものであることが分かる。

こうして見ていくと、村上代表理事のいわば「孤軍奮闘」といった開発状況が浮かび上がってくる。もちろん、Vivliostyleプロジェクトの創始者である村上代表理事のPRが多いのは当然だ。それでも、オープンソースソフトウェア(OSS)開発において創始者に負荷が集中しすぎるのは、持続性の観点から決して好ましいことではない。

ただし、今期はそうした状況を変えるかもしれない兆候が見られた。これまでほとんど村上代表理事だけで開発を続けてきたVivliostyle.jsに新たなコントリビューターが、しかも2人も表れた(図3)。もちろん彼等のPRによって追加された機能は、他のプロダクトでも使える。

図5 今期Vivliostyle.jsにおけるmasterブランチへのコミット数

上図のうち、hkwi氏のPRは以前からの課題だった、目次等でよく使う罫線、CSS leader() 機能を追加するもので、待望の機能追加と言える。

また、daisuke-tanabe氏の一連のPRも、ずっと顧みられなかった@vivliostyle/reactを最新バージョンに引き上げるなどの重要な修正をおこなったものだ。来期もこうした新しいコントリビューターを一人でも増やす努力が必要だ。

他にも当法人の創設以来、ずっと貢献してくれているspring-raining氏は、今期Vivliostyle CLIにおいて、ES Modulesに対応したv6.0.0 (2022-12-17)、VFM v2に対応したv7.0.0 (2023-03-13)をはじめ、着実で持続的な進歩を遂げてくれた。

来期への提言

前節で述べたような、村上代表理事が孤軍奮闘をつづける状況をすこしでも改善するため、どんなことが考えられるだろう。以下の2つを挙げておこう。

  1. 開発リソースの多角化
  2. 事業収益の多角化

上記1について。村上代表理事の孤軍奮闘はなにも今期に限ったことではない。まことに頭が下がる思いではあるが、彼以外のコントリビューターを持続的に増やす方策を考えないと、当法人の持続は危ういだろう。

上記2について。村上代表理事の負担を軽減するためにも、事業収益を受託開発だけに依存しないよう、収益の多角化を図る必要がある。幸いなことに前章図3「前期と今期における事業収益の内訳」を見ると分かるように、編集制作で全体のほぼ半分の収益を得ることができた。来期もこれほどの受注ができるかは不透明だが、引き続き努力を続けるべきだろう。

理事