CDOが挑む
LIXILのマーケティング変革

エンドユーザーに寄り添い、ニーズを的確に捉える

鍋島 勢理(CDO Club Japan)/2018.10.22

いいね ツイートする

 経営の視点で組織のデジタル変革を実践するCDO(Chief Digital Officer)。大きな変革を生むために社外から招へいするケースもある。2016年にCDOとして金澤祐悟氏を招いたLIXILがその一例だ。取締役 専務役員 CDOであり、7月からはCIOも兼務する同氏に、どのようにLIXILを変革していくのか、そしてCDOとしての役割は何かを、デジタル分野における経営陣コミュニティ「CDO Club Japan」理事の鍋島勢理氏が聞いた。(JBpress)

「お客さま」とはエンドユーザー

――現在、御社を取り巻く状況をどう見ておられますか。そして、そのような状況で、CDOの役割をどのように捉えられていますか。

 メーカーとして製品をつくるだけでどんどん売れる、という時代ではなくなってきています。これからは人口が減ったり新築が減ったりすることも予測されているので、ますます「放っておいても売れる」ということではなくなるでしょう。

 私がCDOとして求められているのは、「いかにエンドユーザーに近づくか」ということです。

 いままでLIXILの中で「お客さま」というと、流通店だけのことと捉えている面もありました。昔のように住宅着工が堅調で、順調に製品が売れている状況ならそれでもよかったのですが、いまやそうじゃなくなっています。これからは本当に商品を使ってくださるエンドユーザーのことをもっと知っていかないといけません。真のお客さまであるエンドユーザーのニーズを捉えることが、これからの成長につながる。そういうところに会社をシフトしていく、ということです。

 リフォーム需要は、エンドユーザーが最初に「今の家は住みにくいな」とか「もっと快適な暮らしがいいな」と思うことがきっかけになります。そこをどうやって捉えるかがカギとなります。したがって、エンドユーザーに近づいて、そのニーズを吸い上げていく。そして、われわれが持っているさまざまな商品の中からミートするというものを提供するということが、これからのLIXILのあり方です。そのような形に組織を変えていくことが私の役割だと思っています。

 エンドユーザーに対して役に立つサービスの一例が、20184月に立ち上げた「リクシルオーナーズクラブ」という新しいサービスです。弊社の製品を登録してもらうと、延長保証や、一部有償ですが24時間365日の修理受付、住まいのクリーニングサービスなどが受けられます。

株式会社LIXIL取締役 専務役員 CDO兼CIOの金澤祐悟氏。1999年住友商事株式会社入社、2010年株式会社MonotaRO執行役企画開発部長、2014年W.W. Grainger, Inc.バイス・プレジデントなどを経て、2016年株式会社LIXIL専務役員CDO兼社長戦略室長兼カタログ統括部長、その後マーケティング本部長に就任。201810月から現職

 われわれの製品は頻繁に買い換えることができないものが多いので、お客さまとの接点は何年に1回とかの頻度になります。ところがお客さまが困っているということを察知するためには、弊社とお客さまの接点をもっと増やさないといけません。そうしてお客さまの困りごとを理解して、それに対して提案ができれば理想です。

 リフォームはLIXILに相談すればだいじょうぶだね、というぐらいエンドユーザーに寄り添うサービスプロバイダーと認知され、それに対して製品を提供して、住みやすい暮らしを支える。住設建材メーカーという位置付けから、そのように変わっていくことが大事かなと思っています。

――2016年にCDOに就任されて以来、どのようなことを手掛けられましたか。

 一番変えなければいけないのはマーケティングだと思ったので、まずそこから手掛けました。マーケティングの組織をユーザーセントリックにするということをCDOとしてのミッションと考え、マーケティング組織を変革しました。

 これまでのマーケティングは、その効果を検証することをそれほど重視していないところがありました。テレビCMにしても、「お客さま」と捉えていた流通店の方々に対するものという意識もありました。

デジタルでマーケティングを検証

 しかし、これからはリアルに、デジタルのテクノロジーを使って、エンドユーザーに対して響いたかどうかをしっかり見ていきます。マーケティングがその対象者を変えられたかどうか、たとえばそれによってわれわれのショールームに実際に来てくれたかどうかをトラッキングするとか、そういうことを検証します。

 デジタルデータとかデジタルテクノロジーを使って、マーケティングをよりエンドユーザーに向けたものに変えていく。それこそがトランスフォーメーションだと思います。

――ただ、そのように組織を変えていくのはなかなか難しいと、多くのCDOのみなさんがおっしゃっています。とくに金澤さんのように社外から招かれた場合のご苦労もあると思います。

 大きな変革をするには、社外から来た人が向いているかもしれません。まっさらなところから見ることによって、どうすべきかということがより見えてくる面もあるでしょう。そういう点で社外からの人間がCDOをやるメリットはあります。一方で、組織の歴史とか、組織の中の細かいことがわかっていないとうまい舵取りができません。ビジョンを打ち出す人と、社内の細かいことを知っている人たちがチームワークを作って、組織を変えていく必要があると思います。

成功体験を積み重ねると意識が変わる

 組織を変えるには、社内の人に成功体験をしてもらうことが大事です。エンドユーザーを向いて仕事をすることによって、「こんなにもいいことがある」という小さい成功を味わうことで、だんだん変われるんじゃないかと思います。

 ショールームにおいて、キッチンの完成イメージを3次元のレンダリングを行ってお客さまにお見せするという仕組みを1年前から展開しています。ショールームコーディネーターはお客さまとショールームを見て回った後に、画面に向かって選択した商品を入力すると、その完成イメージが表示されるというものです。選択するものを変えるとリアルタイムで総額も更新されます。お客さまはその場でやり取りをしながら作っていくので納得感があるし、膨大な組み合わせから自分好みのキッチンを作ったことで愛着が湧きます。

 ショールームコーディネーターは「今までのやり方で問題はなかったけど、こういう新しいやり方を実際にやってみると、お客さんは喜ぶんだ」ということを実感してくれました。そうすると、自然と「いかにお客さんの目の前で完成させる割合を増やせるか」というようなことをみんなで考え、自発的に「見積もりの即日渡しを行う比率を7割に上げましょう」というようなKPI(主要業績評価指標)を設定するような動きが生まれます。

 そういう体験を積み重ねることで、意識が変わっていくのではないでしょうか。
 

――7月にはCDOだけでなく、CIO(Chief Information Officer)も兼務されるようになりましたね。

 マーケティングだけじゃなくて、ITも見るようになりました。これからは情報システム部門をユーザーセントリックに持っていこうと考えています。マーケティングとIT2つをいかにユーザー目線に変えていくか。この両方をあわせて大きなデジタルチームになったらいいんじゃないかと思います。

 これまで情報システムは、売るための仕組みとか基盤を支えるものでした。これからはそれを少し変革させていって、エンドユーザーに対するサービスを提供する役割も果たしていきます。

 そのためには、これまでのようなウォーターフォールでの開発だけではなく、アジャイル開発も必要です。このため、それぞれのシステムや機能の方向性を、責任を持って決める「プロダクトオーナー」を制度化します。プロダクトオーナーの役割は、現場に張り付いてニーズを聞き、それをちゃんと整理して要件を決めて、アジャイルで開発することです。つまりユーザーに寄り添う、ということです。この場合のユーザーは社内ユーザーも含まれますが。

 先ほどお話ししたキッチンの3次元イメージを作るシステムも、アジャイル開発のアプローチを採りました。ショールームの現場に行って実際に使ってもらい、ユーザーから上がってきたフィードバックに対応して修正する。その結果をすぐに見てもらう、という繰り返しを何度もスピードを高めてやって、ユーザーが使いやすいものにしていきました。

チェンジエージェントが意識を変える

――そのような開発は、これまでのウォーターフォール型開発に慣れた人にはとまどうことがあるかもしれません。

 社内で意識が変えられるならそれに越したことはありませんが、多少のチェンジエージェントは必要だと思います。チェンジエージェントを適切に配置すれば、社内にいる人たちをうまく刺激してくれるのではないでしょうか。

 今回、時間をかけて、外部から人を採用しました。特定の分野での専門性は持っているけど、それだけではなくて、人柄としても尊敬されるような人たちです。そのような人たちは、これまで社内にいた人に対して影響を与えます。その影響を受けて、変わっていこうとする人たちを引きたてることによって、組織を変えていこうとしています。