SOMPOが目指す「保険の先」、
先導役が語る未来
デジタルでの新事業を重要なビジネスの柱の一つに
鍋島 勢理(CDO Club Japan)/2018.11.1
業界全体で大きな変革が起きようとしている金融業界では、組織のデジタル変革を実践するCDO(Chief Digital Officer)の役割が非常に重要だ。SOMPOホールディングスのCDO楢﨑浩一氏に、今後SOMPOをどのように変革していくのか、そのときのCDOの役割は何かを、デジタル分野における経営陣コミュニティ「CDO Club Japan」理事の鍋島勢理氏が聞いた。(JBpress)
「保険の会社」から大きく変わろうとしている
――まず、SOMPOに入社された経緯を教えてください。
私は三菱商事に入社し、シリコンバレー駐在を経験したあと、2000年に現地のスタートアップに転職しました。複数のICT関連企業で事業開発や経営に携わったあと、SOMPOに声をかけていただいて、2016年5月にSOMPOホールディングスのグループCDO執行役員に就任しました。
面接の際、損保ジャパン日本興亜の西澤敬二社長と、SOMPOホールディングスの櫻田謙悟グループCEOに別々にお会いしましたが、お二人がおっしゃっていることはまったく同じでした。
現在保険というのは、事故が起こったり、病気になったりしてからでないと出番がありません。しかし、それは本来お客さまが望んでいることではない。そうではなくて、事故が起きないように、病気にならないように、ケガをしないように、壊れないように、風水害に遭わないように、「安心・安全・健康」を積極的に前倒しでお客さまにお届けしたい。そのためにはデジタルトランスフォーメーションが必要で、それをやってほしい、とのことでした。
私は感動して、そういうことをやらせてもらえるなら、命がけでがんばります、と言いました。
いまSOMPOは「保険の先」を目指し、「安心・安全・健康のテーマパーク」を追求しています。つまり「保険の会社」から大きく変わろうとしているのです。
――就任されてから2年半が経ちましたが、その間にどのようなことをされましたか。
一つが「ラボ」を作ることです。就任と同時に、SOMPO Digital Lab TokyoとSOMPO Digital Lab Silicon Valleyを作りました。そして去年(2017年)末に3番目をイスラエルのテルアビブにオープンしました。シリコンバレーは割と一般的ですが、日本からテルアビブに進出しているところはまだあまりないのではないでしょうか。
それらのラボでは、何千もの候補から厳選して、昨年度は42件の実証実験を行いました。そのうち10件はもう実際にリリースされています。
具体例として「カシャらく見積り」というアプリをご紹介しましょう。タブレット端末でお客さまの現状の自動車の保険証券と車検証をタブレットで撮影します。すると内容を自動で読み取り、保険料計算システムへ送ることで、お見積もりからご契約手続きまでペーパーレスで完了できる、というものです。すでに現場で使われ始めていて、結構反応はいいですよ。
また、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)をセットアップしているほか、ベンチャーキャピタル(VC)にも投資しています。もうけを得るためではなくて、ネタの仕入れ口です。
保険テック(インシュアテック)のスタートアップTrovなど、スタートアップ企業にもかなり出資しています。相手とのパートナーシップの一つの手段としてです。私はスタートアップ側にいた経験があるので、相手の気持ちも痛いほどわかります。正しいパートナーと正しい組み方をするのは大事なことだと思います。
デジタルは基本的に無国境
――現在ラボはどれぐらいの規模ですか。
先ほどお話ししたように場所は3カ所。合わせて約60人です。半分が社内からの異動、半分が社外からの採用です。シリコンバレーは日本人の方が多いのですが、テルアビブは全員イスラエル人です。
現状では「社内、国内、日本人」が優勢ですが、今後はテルアビブのように「社外、海外、外国人」をもっと増やしていきたいです。理由は主に3つあります。
まず、エンジニアとかデータサイエンティストを国内で探しても足りないこと。2つめは、海外での取引や事業が増えていく中で、全部日本でやっていたら遅くなってしまうから。そして3つめは、デジタルは基本的に無国境だからです。全世界で一番いいものをお互いに交換しようじゃないか、というビジョンがないと優秀な外国人は採用できません。「日本の保険会社です」ではダメですね。
SOMPOという共通項はあるけど、いろんな国籍の人がいて、みんな同じ目標に向かって力を発揮しているというのが理想です。まだまだですが。
拠点も人数もまだ全然足りないと思っています。10カ所とかの規模にまで増やしたいです。そのための一つの課題は、拠点を管理して指示するのが現在私ひとりだということです。これでは思うように数を増やすのが難しいです。後任を育てたいとは思っているのですが・・・。
――楢﨑さんは社外からCDOに就かれましたが、その利点はどのようなことでしょうか。
私はデジタルにだけ突き進んでいけばいいという状況になっていて、それをバックアップしてもらっている点で、SOMPOには感謝しています。
「CEOは孤独」と言われますが、CDOも結構孤独です。私が思う、あるべき姿のCDOというのは、スペシャリストです。
社外からCDOになった人に仲のいい人が多いのですが、みんな共通の雰囲気を持っていますね。「オレはオレのミッションをやるんだ」という信念や、「この会社をこういう風にもっていく」というゴール設定がはっきりしています。もしそれがその会社と合わないようならクビでいい、と言える強さと潔さがあります。逆に「ダメなら人を替えればいい」という点で、会社にとっても社外からのCDOは都合がいいかもしれません。
そういうCDOを見て、周りにいる活きのいい人が「こうやってやるのか」と考え方ややり方を学んでいけば、2代目以降は社内からCDOが生まれるかもしれません。
――楢﨑さんが目指す会社の将来像はどのようなものでしょうか。
私のミッションは次の2つだと考えています。
1つは、会社全体がデジタル化してしまっている、という状態になることです。いま私が担当しているデジタル戦略部だけの話ではなく、社員全員がデジタルが当たり前で、空気みたいなものになっているのが一つのゴールです。あらゆることがデジタルリッチになった未来型の会社になるということです。
既存の事業部では想像もできなかった新事業
もう一つはデジタルでの新事業を興し、重要なビジネスの柱の一つとすることです。既存の事業部ではできないこと、想像もできなかった新事業をデジタルで作ります。去年サイバーセキュリティ事業を立ち上げましたが、ほかにもものすごい勢いで仕掛けを作っています。まだお話できないのですが、「そこまでやるのか」と驚いてもらえるものになる自信がありますよ。
私がシリコンバレーで関わったベンチャーはいずれもソフトウェア分野でした。それで思うのは、金融業はソフトウェア産業に似ている、ということです。製造業のようにモノを作るのではなく、権利をやり取りするビジネスだからです。
金融業は今の新しい時代を享受できる可能性を持った業種です。現在は残念ながら堅い業種になっていますが、会社全体がデジタル組織になれば、世界一強い産業セグメントになるでしょう。金融機関のCDOとして、最終的にそこまでやれればおもしろいと思っています。